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ふわっとしたアイデアをサービスのUI・UXに落とし込む。新規事業の戦略設計・開発ディレクター 大内 貴則さん

ディレクターバンク株式会社は、企業のWebマーケティングを顧客視点で最適化し支援する、企画・運用会社です。様々な分野の才能あふれるディレクター陣が、企業の担当者様とチームになって、日々Webマーケティング課題の解決に挑んでいます。

このコーナーでは、そんなディレクターバンク所属の多彩なWebディレクターにインタビュー。得意分野から個人的な趣味趣向まで、その魅力をご紹介します。 今回は、新規事業立ち上げで様々なプロジェクトを窮地から救い、成功へ導いてきた大内 貴則さんをご紹介します。

PROFILE

サービス エンジニアリング アンド テクニカルアシスタンス
大内 貴則(おおうち・たかのり)さん

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大学卒業後、医薬品卸大手企業に就職。エンジニアとして基幹システム統合プロジェクトに従事した後、デザイン会社でのデザイナー等を経て、中堅SIerに転職。新規事業の立ち上げを行い、事業部長としてモバイルコンテンツビジネスの立ち上げや、通信キャリアや大手企業向けのスマートフォンアプリのコンサルティングサービスを展開。ベンチャー企業の執行役員を勤めた後、2014年4月に独立。企業の新規事業立ち上げおよびWebマーケティング支援を中心に活躍中。

エンジニア、デザイナーからビジネスメイクまで全方位の経験値

――現在は企業の新規事業の支援などでご活躍されていますが、まずはご経歴を教えていただけますか?

大内さん:大学卒業後、大手企業に就職し、レガシーシステムのエンジニアとしてキャリアをスタートしました。

そこでは、基幹システムの統合プロジェクトが進行中で、何百人も関わる開発プロジェクトに新卒としてほうり込まれました。

開発プロジェクトが一段落した後は、将来的にWebディレクションのポジションに進むために、デザイン会社でのデザイナーやベンチャー企業でマーケティング、制作スキルを磨きました。

そして、26歳のときに中堅SIer(エスアイヤー:System Integrator)へ転職し、新規事業の立ち上げに従事し、その後事業部長として事業を推進しました。

当時は、日本にスマートフォンが上陸する前のガラケー時代で、海外のアニメコンテンツをガラケーの独自メディアでコンテンツ配信するという事業だったのですが、海外のライセンス元や、アニメで使用する有名アーティストの楽曲の版元、通信事業者など、ステークホルダーが多く、権利関係やコンテンツの取り扱いの調整で、海外とテレビ会議を行うなど各方面の交渉に飛び回り面白かったです。

AndroidやiPhoneが日本に登場した後は、某通信キャリアや国内の大手企業のR&D(Research and Development)事業が順調に伸び、そちらへシフトしていきました。当時は、アプリの開発やコンサルティングができる会社というのが少なく、競合は大手という市場環境の中で、ベンチャーとしての強みを活かして支持を得ることができました。

その後100人ほどのベンチャー企業で執行役員を任せてもらった後、2014年4月に独立し、6月に法人化しました。

――独立後のお仕事は、どのような内容ですか?

大内さん:現在メインとなっているのは、企業の新しい取り組みの立ち上げフェーズにおける支援です。事業の整理から要件定義、開発まで。事業立ち上げに関する支援をひととおり行っています。

また、コロナ禍になって特に増えたのが、デジタルシフト支援です。リアル店舗でビジネスをしているような非IT業の開発や集客のしくみづくりといった広義のデジタルマーケティング支援です。

マスメディアでの広告やチラシでの集客は、年々費用対効果が悪化しており、社内のマーケティングチームがデジタル領域については未知という状況から、タスクフォース的にチームを組み、具体的にプロジェクトベースで開発や、集客改善しながらOJTをしています。合宿への参加や、時折Google アナリティクスなどの勉強会をやったりしています。

この社会的な状況下で、クライアントの担当者も、「今までは外注任せだったが自分も理解したい」というマインドの人が圧倒的に増えたと感じています。今までのマスマーケティングや、外注任せの仕事の仕方では、自分の仕事がなくなるという危機感を非常に強く感じます。

一方で、支援においてコンセンサスをとるのに時間をかけるようになりました。私がすべてをやるのではなく一緒に考え、一緒にやるみたいな感じで。「特命係長」とか言ったりするんですけど(笑) 外部業者と企業の中の人みたいな関係はないですね。

情緒的な相性も重要! コケないプロジェクトチーム作り

――企業の支援にあたり、特にそのプロセスで重視している事は何ですか?

大内さん:最近は長期的なプロジェクトが多いので、クリエイターや開発エンジニアなどの人員含めてチーム構成には気を配ります。チーム作りで失敗すると、失敗する確度が高まりますので。

技術的・機能的に、もれなく重複なくMECE(ミッシー:Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)に網羅できている状態にするのは当然なんですが、長く一緒にやるので情緒的な相性、「同ベクトルが持てるか」でチーミングするというのを大事にしています。

例えば、同じデザイナーでも、見た目重視なのか、コンバージョンの数字重視なのか考え方に違いがあったりします。コンバージョンを最も重視したいプロジェクトにおいては、後者が適任です。課題が発生したときに不毛な疑問を持たなくて済みますから。

議論が白熱したときでも「この方向に向かってくよね」というところが合っていれば、事前に根回しのようなコンセンサスをとる必要がない。意見の対峙は歓迎ですが、毎度「どこに旗を立てる」が議論の中心になると時間ばかりが過ぎて大変です。スピードアップにもつながります。

人間的な相性ももちろん重要で、私が居なくてもチームメンバーが回ることを大切にします。

――事業開発からWebマーケティングまで幅広くご活躍ですが、タイトルをつけるとするとご自身ではなんと表明されているのですか?

大内さん:「“サンドバック”」(笑)

クライアントから初期にいただく要求は、もやっとした要求であるケースがほとんどです。

でも曖昧な要件ではかたちにできない。

市場ニーズ、クライアント、作るひとたちの間で、ゆられながら調整していく。
不確かな要求をぶつけられても必ず明確にして戻します。

サンドバックはどんなに強く殴られてもちゃんと戻ってきますよね。(笑)

そんな存在ですということで“サンドバック”と言ったりしますが、真面目に答えると、サービスを作るためのものを技術とか制作レベルから支えますという意味で『サービス エンジニアリング アンド テクニカルアシスタンス』というタイトルを昔から使っています。

コンサル業界用語で、技術的見地から支援する「SETA(シータ)」という職種があって、本来はSystems Engineering and Technical AssistanceでSETAなんですが、“システム”を“サービス”に変えた私の造語です。

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まるで『プロジェクトX』! 日本初のAndroidアプリ開発

――現在・過去のプロジェクトで印象に残っている事例について教えてください。

大内さん:独立する前のR&Dの案件です。10年くらい前で、これからスマートフォンのAndroid端末が日本に初めて来るというタイミングで、Android端末用のアプリ開発プロジェクトでした。

実機自体は日本にまだない。技術情報もない。リファレンス(ソフトウェアの手本となる標準ソースコード)もない。もちろん前例もない。

関連する英語のWebサイトを見ながら一生懸命やっていたのですけど上手くいかず大炎上しました。私自身は、途中から参加したのですが、納品一週間前に何もできていないことが分かって、クライアントは怒りまくっている状態で。

エンジニアも何を作っていいか分からないのです。
それが逆に面白かった。

そこで一端すべてをリセットしました。

リセットにあたっては、開発エンジニアたちには「リセットしてくるから、気持ちもリセットして」と。敗北感や妥協で関わられたくなかった。離脱したければそうしてくれと伝えました。RPGでいうと、最終回復魔法を掛けないともう動けない状態ですから。

それから、Androidに興味がありそうな、凄うでのエンジニアに、関係者で伝手を頼って声をかけました。それからトップエンジニアたちのドリームチームみたいなのができ、フル稼働で集中し、そして想像以上の成果がでました。創り上げたときは、メンバーも歓声でした。日本初、未踏地に旗を立てた思いです。

優秀なエンジニアたちと働けるというのも面白かった。そういう人たちと一緒に席を並べ、前人未踏の領域で、ドリームチームで成し遂げたという意味でも思い出があります。

結果的に激怒していたクライアントも感謝してくれて、今でもお付き合いがあります。ちゃんとできればリピートしてくれるんだなと。

失敗も含めて印象深いビッグプロジェクトでした。

これからは「提案型」より「コンセンサス型」

――ハラハラドキドキの顛末でした! すごいプロジェクト事例がまだまだありそうですが…?

大内さん:最近の案件では、開発期間中にコロナ禍に突入してしまってフルリモートで対応をすることになったプロジェクトです。コロナ禍の影響でフルリモートになってしまった。

クライアントも知見のあるプロでしたが、アプリのユーザー体験の根本的な考え方について、多様な意見があり、ユーザーテストや検証を行って、結果的には合意にいたることができた。

プロジェクトの半ばで、私自身が進め方に行き詰まってしまったのですが、尊敬する仲間のサポートや、その中で紹介してもらったGoogleの仕事術『SPRINT 最速仕事術――あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法』(ダイヤモンド社)という本のやり方を採用しました。

「SPRINT(スプリント)」は、グーグルで開発された仕事術で、一週間の中で目標を決めて、検証を繰り返すことで納得感を得てやりましょうというやり方です。

クライアントもプロではありましたが、みんな技術的なバックグラウンドや認識が違ったので、かえって自分のやり方をしないほうが上手くいく。本の通りやりました。

いままでは、私が提案して、それに合意してもらって進めていましたが、このプロジェクトではみんなで話し合ってコンセンサスをとりながら進めていくほうが上手くいった。

提案型よりも、コンセンサス型なんだなこれからはということを強く感じたプロジェクトです。

経験を積んで、自己流を磨いてきたつもりでしたが、ここにきてアンラーニングというか、そういうものを一端忘れてみるというのも必要だなと。

市場のニーズに応えて、多様化するWebマーケティングツール

――今、いちユーザーとして注目されているホームページやWebサービス・アプリ等がありましたら教えてください。

大内さん:よく使うアプリとか、よく見るWebサイトはたくさんあるのですが、最近は特に解析系のツールに注目しています。

Google アナリティクスやGoogle タグ マネージャー、その他MA(Marketing Automation)ツール、競合分析ツールなど。

とても高価なツールを導入しても使われなければ意味がない。将来のために様々なデータを取りたいのか、目の前の成果が大事なのか、いろいろな仮説を検証したいのか。

外注先である私たちだけでなく、クライアント企業の現場の担当者がきちんと扱えるようにするためにどうするかという意味で、各ツールの機能のチェックや、ベストな組み合わせを考えたりしています。

ツール市場も近年変化しており、例えばメジャーなツールであるGoogle アナリティクスも市場のニーズにあわせて変化しています。他にも、マーケティングツールは、他のツールと連携しながら、データにあわせて自動化していく流れにあります。

そのなかで、どういう組み合わせが、Webマーケティングの最前線にいる人たちだけでなく、これからデジタルシフトしなければならない企業担当者にとって良いのかなど、ここ一年くらい研究対象としてアツい。実際にツールを開発した方々に話を聞いたりしながら、開発背景にある思想の違いも含めて面白いんですよ。

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ピンチをチャンスに変えた!ポルシェとの出会い

――お仕事以外で趣味や、今後の夢・やりたいことがあれば教えてください。

大内さん:4年位前に自動車の運転免許をとったのですが、それまではまったく車に興味なかったのに、こんなに面白いと思わなくてハマってます。

免許をとる前に車のディーラーに冷やかしに行って、そのまま購入してしまって。当時、公私ともにどん底でした。

もともとは高齢の親の住む地元・福島への移動手段として免許をとることにしたのですが、実際に乗り始めてみたら運転が面白くて、突き詰めてやるならと現役のチャンピオンレーサーにサーキットの走り方を教えてもらいました。

そうこうしているうちに、車好きな人が友達に増えてきて。自分のマーケティングの勉強も兼ねて車関係のフォロワーを増やそうと車用ソーシャルアカウントをたちあげ一生懸命やったら、3ヵ月で2,700フォロワーに。YouTubeは4,000人以上に。手応えを感じてクライアントにも提案しています(笑)

自動車業界の企業からアプリ開発の仕事をお声がけいただいたりと、好きなものを突き抜けるくらい突き詰めていくと、仕事にも還元できます。

温泉徒歩2分の環境で働く“パワーケーション”

大内さん:今後やりたいこととしては、独立した理由に通じるのですが健康に関するサービスをやりたいと考えています。

ここでいう「健康」とは、「仕事の継続的なパフォーマンス維持・向上」。

私の地元・福島で親族が温泉旅館を経営しており、20代の頃に会社の幹部合宿で使ってもらったことがありました。その合宿では「クライアントのエンゲージを高めよう」をテーマに様々な議論をして、結果、売上が2.5倍になったという成功体験があります。

このような事例は過去何度かみました。
その体験をサービス化したいと考えたんです。

例えば、旅館にコワーキングスペースを作り、本格的なデスクや、ワーキングチェア、セキュアで高速な通信環境なども厳密に指定し、働きやすい環境を整える。「オフィスから徒歩2分の温泉」と銘打って、リモート会議や作業の合間に温泉でリフレッシュ、心も体も良くなってまた仕事に打ち込める。そういうところからモチベーションを上げてもらってパワーアップする。パワーアップするワーケーションで、“パワーケーション”と名付けました。
コロナ渦で進んだリモートワークを逆手にとった形です。

このように、どうやったら長く働けるのか、働き方から柔軟に考え、継続的にパフォーマンスを高められるかを追求していきます。

――最後に、Webマーケティングにお困りの企業担当者様へメッセージをお願いします。

大内さん:ここ数年は課題が複雑化し、解決するための手法が多様になったせいで、何から手を付けるべきか整理できない企業が増えたと感じています。そんなクライアントには、まずは壁打ちしながら一緒に考えませんか?と提案しています。何に困っているかを言語化するところから、一緒に考えさせていただきます。

課題が整理できていないのに、その答えを求めて外注コンペしたところであまり意味がありません。

何が課題なのか、何が目標なのか?そういうところから一緒に考えてくれるパートナーを探してくださいということをお伝えしたいです。

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撮影:原地 達浩